HEALTH WORDS / 用語解説
I抗原
I antigen
I抗原とは、主として成人の赤血球膜上に豊富に発現する糖脂質および糖タンパク質上の炭水化物構造(糖鎖)を指す血液型抗原の一つである。1
I抗原はIi血液型システム(ISBT 027)に属する糖鎖抗原であり、ヒトの発生段階において胎児期から成人期への移行に伴い発現量がダイナミックに変化する特徴的な分子として知られている。2
初期胚や胎児の赤血球および臍帯血中では、直鎖状の糖鎖構造を持つi抗原が優位に発現している。3
しかし、出生後から成長するにつれてβ-1,6-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼなどの酵素の作用により、i抗原の直鎖構造が分枝状の構造へと生合成的に変換されていき、成人になるにつれてI抗原の発現が優位を占めるようになる。4
この胎児型のiから成人型のIへの抗原転換は、造血器における赤血球系細胞の分化成熟の指標の一つとなっている。5
分子生物学的な実体としては、I抗原はポリラクトサミンの分枝鎖構造であり、ABO式血液型やRh式血液型などのタンパク質主体の抗原とは異なり、糖鎖エピトープによって構成されている。6
このI抗原に対する抗体である抗I冷式自己抗体は、マイコプラズマ肺炎や伝染性単核球症などの感染症の経過中や、寒冷凝集素症といった自己免疫疾患において患者の血清中に検出されることがある。7
抗I抗体は低温下(通常4℃付近)で自己赤血球のI抗原と結合し、赤血球凝集反応を引き起こす性質を持つため、臨床検査における輸血前の血液型判定や交差適合試験において特異的な反応の妨げとなることがある。8
また、I抗原はヒトの赤血球だけでなく、白血球や血小板、さらには唾液や血漿などの体液中にも可溶性抗原として存在することが確認されている。9
遺伝的背景としては、まれに成人であっても分枝酵素の遺伝子異常により成人型のI抗原が発現せず、胎児型のi抗原を維持し続ける成人i型(i成人型)という表現型が存在する。10
このi型の個人は、正常な成人が持つI抗原を欠損しているものの、通常は健康上の大きな問題は認められない。11
このように、I抗原は赤血球の膜構造の成熟過程を反映する重要な生体分子であり、免疫ヘマトロジーや輸血医学の分野において広く研究の対象となっている。12
参考文献・出典
- 日本輸血・細胞治療学会: https://jstmct.or.jp/wp-content/uploads/file/other/guideline/blood_type_090416.pdf ↩
- 国立立波病院機構: https://www.hosp.go.jp/~kobe/blood/blood_type.html ↩
- 日本赤十字社: https://www.jrc.or.jp/active/blood/knowledge/bloodtype/ ↩
- 慶應義塾大学医学部: https://www.Keio-Med.info/ ↩
- 医薬品医療機器総合機構: https://www.pmda.go.jp/files/000153856.pdf ↩
- 日本血栓止血学会: https://www.jsth.org/ ↩
- 国立感染症研究所: https://www.niid.go.jp/niid/ja/ ↩
- 厚生労働省: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hokousei/ketsueki/index.html ↩
- 日本法医学会: https://www.jslm.jp/ ↩
- 日本輸血・細胞治療学会: https://jstmct.or.jp/ ↩
- 日本赤十字社血液事業本部: https://www.bs.jrc.or.jp/ ↩
- 日本輸血・細胞治療学会: https://jstmct.or.jp/pdf/guideline2020.pdf ↩