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HEALTH WORDS / 用語解説

発症

Onset

発症とは、疾患の特有の症状や徴候が初めて臨床的に現れること、または潜伏期を経て病気が顕在化することを指す。1 医学や疫学の領域において、発症という用語は健康な状態あるいは無症状の感染状態から、何らかの病態が明確に確認できる状態への移行局面を定義するために用いられる。2

臨床医学および分子生物学の観点から見ると、発症のメカニズムは疾患の種類によって多様であり、遺伝的要因、環境要因、生活習慣、病原体の感染など、多岐にわたる因子が複雑に関与して引き起こされる。3 多くの慢性疾患や生活習慣病においては、生体内の代謝異常や細胞レベルでの変性が長期間にわたって無症状のまま進行し、ある閾値を超えることで初めて発症に至るという経過をとる。4 一方で、急性感染症や外傷などの疾患では、原因となる刺激やウイルス・細菌などの病原体が体内に侵入あるいは作用してから、比較的短時間の潜伏期を経て急激に発症することが特徴である。5

疫学調査や臨床試験の設計においては、発症の時期を正確に把握することが、疾病負担の評価や治療介入の効果測定を行う上で極めて重要な指標となる。6 例えば、悪性腫瘍や心血管疾患などの研究では、診断された時点ではなく、症状が実際に現れた発症日を基準として生存期間や予後を解析することが求められる場合がある。7 また、発症率(Incidence rate)という指標は、特定の集団において一定期間内に新たに疾患が発症した頻度を示し、公衆衛生学的な疾病予防対策の立案や医療資源の配分を決定するための基礎データとして活用されている。8

精神医学や神経学の分野でも、発症は疾患の経過を理解する上で中心的な概念である。統合失調症や認知症などの精神神経疾患では、認知機能や行動面の変化が緩徐に出現するため、正確な発症時期の特定が困難なことも少なくない。9 これに対して、脳卒中などの急性期疾患では、麻痺や言語障害などの神経症状が突然かつ劇的に現れるため、発症時刻の特定が超急性期治療の適応判断や予後の改善に直結する。10 このように、発症という現象は、個体レベルでの生体反応の破綻を示すと同時に、医学的診断や治療戦略、予防医学において基準点となる極めて重要な生物学的概念である。11

参考文献・出典

  1. 厚生労働省 雇用・医療・福祉用語解説: https://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/05/h0516-1a.html ↩
  2. 国立感染症研究所 感染症学用語解説: https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/409-idwr-glossary.html ↩
  3. 厚生労働省 e-ヘルスネット: https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-029.html ↩
  4. 国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター: https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/010.html ↩
  5. 厚生労働省 感染症法に基づく医師の届出ガイドライン: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index_00003.html ↩
  6. 国立がん研究センター がん情報サービス: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/dl/index.html ↩
  7. 国立循環器病研究センター 循環器病情報サービス: https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/ ↩
  8. 独立行政法人 労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所: https://www.jniosh.johas.go.jp/publication/doc/osh_report/rt-49.pdf ↩
  9. 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所: https://www.ncnp.go.jp/nimh/index.html ↩
  10. 国立循環器病研究センター 脳卒中情報ページ: https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/stroke.html ↩
  11. 厚生労働省 科学研究費補助金事業 医療安全対策研究報告書: https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/s0903-5.html ↩